3回目のハセツネ

一年間の怪我を開けて、モーグルのトレーニング中に鎖骨を骨折して鎖骨バンドをしながら2007年のグリーンシーズンに突入しました。これまでトレイルランニングのレースにはハセツネ以外出場したことがありませんでしたが、7月に北丹沢で開催されているレースに出場しました。距離は40㎞ちょっとだったかな。当時の僕にとっては、長い。かなり気合を入れて臨みました。 そのレースの思い出と言えば、長い林道を下っているとき、トレイルランナーの渡邉千春さんに出会ったことです。一度長い時間離されてからまた追いつくことができ、走りながら、「お前、なかなか根性あるな!」という風に言ってもらえて、走りながらうれしくてテンション上がったことを覚えています。千春さんとはその数年後、同じチームに所属し、同じ海外遠征に行ったり、今も一緒に山へ行ったりしています。兄貴であり大先輩です。そのほかには、暑すぎて途中のエイドステーションできゅうりが死ぬほどうまかったことと、下りがめちゃくちゃ飛ばせたこと。トレーニングを積んでいたので満足できる走りができたのも覚えています。 それにしても、鎖骨バンド臭かったですね。

さて、いよいよ10月、待ちに待ったハセツネカップ。夏からも継続的にトレーニングを積みました。ただ以前より多くトレーニングしたという記憶はなく、むしろ膝を怪我したり、鎖骨を折ったりして、自分の体の声に耳を傾けることが多くなりました。疲労があるから練習を抑えようとか、今日はすごく意欲あるから、追い込んでみようとか。トレーニング内容は直前に決めるようになりました。

2007年ハセツネスタート前。フルマークス白馬店あんぱん店長(2219)と。カシャカシャ。📸

怪我をして、走るのをやめようかと、迷っていただけに、何のプレッシャーもありません。

「走れるだけで幸せ」

前日に富士見にある越中さんの治療院でテーピングをしてもらいました。調子がいいのか悪いのかもわからない。でも嫌な感じはなかったので、特に変な緊張感もなくレースをスタートできました。

スタート会場。何かを右手に持っているが、わからない・・・

装備を軽量化しました。水は悩んだ末にハイドレーション2L、ペットボトルで500ml。補給食はジェルと小型おにぎり。シューズはミズノのトレイルラン用。ウエアはできるだけ軽いものを着用。完全に当時の最新装備でした。

結果は、6位。8時間30分ほど。怪我前よりさらに1時間20分短縮。2004年2005年の苦しい感じはなく、さらりと走りこのタイム。走れるだけで幸せで、ただただ多くの選手たちと走ることを楽しんでいただけです。終わってみると自分でも信じられない感覚でした。膝は何も感じず、無痛。この時、長いトンネルから脱出しました。不思議な体験でしたね~。

走れることに感謝して、脚に感謝して、何も考えずに楽しめばいい。

今までは順位やタイムにこだわり、そればかり考えていたけれど、この時は明らかにそれは考えていなくて、本当に走れることの喜びをかみしめていただけでした。

結果はおまけぐらいがちょうどいいということがわかりました。

どうしても脳裏に焼き付いていることがひとつ。スタート前に会場から少し離れたところで一人で座って目をつむってじっとしている人を見たんです。丸坊主の。その時のその人のものすごいオーラというか雰囲気というかすごかったんですよ。この人、優勝する人かもしれないとそのとき思いました。レース後、表彰式の中央で、見つけたんです丸坊主のあの人。そうです相馬剛さんでした。僕は、心の中で「やっぱり~」とつぶやきながら、6位の位置からチラチラと相馬さんを見ていたんですね。

2008年4回目のハセツネ

復帰2年目の2008年。練習は特に変化することなく、地元での峠走や、山道を使った短時間追い込み型のトレーニングで、これらを当時監督をしていた高校山岳部の生徒と取り組んでいました。一人ではなかったので、毎日多少の緊張感はありました。同じルートを何回も練習をして、そこのタイムを縮めていくのが楽しかったです。きついけど生徒もそれを楽しんでいたと思います。と思っています。(?)

そしてこの年はトレイルレースにさらに出場しました。夏にはOSJ志賀野反やおんたけ100㎞。特におんたけでは初の100㎞ランを経験しました。ゴール後は膝と足首痛すぎて、回復までに4週間ほどかかりました。けど何のプレッシャーもなく本当に走ることが楽しかったんです。

そして迎えた10月。2週間前には菅平スカイレースで刺激を入れ、その後、波乗りなどで気分転換を兼ねて体をリラックスさせ登山へ行ったりオフを多めに入れたりして、前日は当時勤務していた高校の学園祭。川に入りいかだを止める係をやりました。そして4回目のハセツネを日常の中で迎えました。

2008年ハセツネスタート前。いつものフルマークス白馬店店長アンパンマンに加え、同じ韮崎高校出身のゆういちろう(バドミントン部)も加わりました。カシャカシャ📸

今やカラフルなおしゃれテーピングが多いですが、当時越中さんに巻いてもらったテーピングは肌色。なるべく目立たないようにというのがコンセプトだったようです。

装備は昨年同様完璧に軽量化。新しいものとしては、ベスパを導入したことです。レース2週間前にベスパ齋藤さんこと、齊藤通生さんのご自宅にお邪魔し、ベスパについていろいろと説明を聞きました。すごそうだなぁ、と思いレースで使ってみることに。前の年の唯一の不安と言えば、夕方頃、走れる上り坂でハムストリングが痙攣しそうになったこと。「これ以上上げたら、つっちもう!(攣ってしまう)」とやむなくペースダウンした記憶は今でも覚えています。

簡単に言うとベスパはそれを解消してくれる、とのことだったので、絶対持っていく、ということになったのです。

ここ数年は自然災害が多く、どんなレースでも、無事にスタートできることがどれだけありがたいことか思い知らされています。この日は予定通り13:00五日市をスタートできました。

序盤に誰かのサンオイルのあのココナッツの香りがプ~ン、としてきてテンション上がったの覚えています。大好きなんです、あの甘い香り。最初は体がそんなに軽いとは思わなかったのですが、少しずつ時間が経つにつれて、徐々に、「あれ、いつもより楽だ」という感覚に。特に緊張することなく、楽しく走れていましたね。

これが藤巻翔君が撮ってくれた最初の写真だと思われます。
©sho fujimaki

三頭山というほぼ中間地点では、前半より疲れていない状態で、膝はというと、半月板ないけどまったく不安なし!下りでは突っ込みすぎて、靴のインソールがずれてしまい、靴の中で直しながら走りました。汗

月夜見のチェックポイント。水補給!
まだまだだいぶ余裕があります。
©sho fujimaki
補給中。
ヘッドランプは下に落ちないようにテーピングでとめてます。(笑)
現在使用しているタイプよりだいぶ暗めです(笑)
©sho fujimaki

この月夜見の給水の後は赤土がめちゃくちゃ滑るんです。でもここから飛ばしました。途中で道を少し間違えたかと勘違いしてしまい、10分くらい行ったり来たり。岩場だったんですが、ものすごいスピードで行ったり来たりしていたことを覚えています。そんなことをしているうちに、奥宮選手、横山選手に追いつきました。どうやら横山さんが先頭を走っていたらしく、追いついたときは、「おれすごいところにいるな」と他人事のようでした。

膝は昨年に引き続き全く痛くなく、痙攣もなかったです。(ベスパの威力を感じた!)最後のCPでは横山峰弘さんと同時だったのですが、金比羅尾根では本当に気持ちよく、気力も速度も充実した「全力」で駆け降りることができ、今でもあの時の感覚は覚えています。疲れていなかったですね。 ゴールまであと5㎞くらいのところで、「あれ?」俺先頭だよな、と。 そのあとはゴールの仕方を考えていました。夏に走った、おんたけ100で、優勝した鏑木毅さんがコブシを上げてゴールをしていて、それがかっこよすぎて、以来ずっと憧れていたのです。最後のゴールへのストレートで後ろを初めて見ました。

し~ん。。。

ガッツポーズやっちゃいました。

いや~、優勝してしまいましたね。しかも当時大会新記録でした。

あれ、まさかの優勝!?
これがそのガッツポーズ。
©sho fujimaki
こんなに大勢の方にカメラ向けられたのは結婚式以来2回目です。
©sho fujimaki

とにかく気持ちよかったです。疲れもなく、もう一周くらい行けそうな感覚でした。汗はびちゃびちゃでしたが・・・不思議ですね~。

リザルト。

ゴール後は、僕をサポートしてくれたメーカーの方々はとても喜んでくれるし、取材はやたら多いし、写真撮ってくださいってくるし、、、これが優勝なんだ、と、とてもうれしかったです。実は生まれてこれまで個人での優勝は初めてでして、はい。初体験なのでした。

感想

終わってみて、感じたことは、このトレイルランニングという競技、フィジカルはもちろんだけど、それ以上に、心の持ちようが、走りに、とても影響を及ぼす、ということ。僕の場合は4回のハセツネを通して、気負えば前に進みにくい、楽しめば気持ちよく前に進む。そんな感覚を経験しました。これは翌年2009年以降の100マイルのチャレンジに大きくプラスになる経験で、僕にとって、山を走ることがやめられなくなってしまった経験でもありました。かなりの中毒性がありますよ~(笑)。

ということで2004年から2008年のハセツネは僕を心の面で大きく成長させてくれた貴重なレースでした。ありがとうございました。

おっと、忘れていけない、この人のゴール!

あんぱん店長も毎年きちっと完走。誰よりも明るいライトでゴール。
バリバリまぶしいの腰のライト!目立ってました。メーカー不明。

次はいよいよ日本を飛び出し初の海外レース参戦になります~

yamamoto