八甲田のガイドの歴史
八甲田のガイドの歴史は古く、スキーのフィールドとして人気が高まってきた1956年、冒険家の三浦雄一郎さんの父親である三浦敬三さんを中心に結成されたリーダーグループがその始まりと言っても良いでしょう。
スキー場がまだあまりなかった時代、全国から訪れるスキーヤーの安全のため宿泊施設のサービスの一環として始まったものでした。当時は厳冬期には山に入れるような方法も装備もなく、春の天候や雪質が安定した頃にスキーでの案内は行われていました。
1968年にロープウェーが開業すると八甲田の人気は一気に高くなり、各宿にガイドが常駐するようになり、時はめぐり、1991年に八甲田で初めて独立したガイド組織として設立された八甲田山ガイドクラブも様々な変遷を経て27年目を迎えようとしています。
山の楽しみを共有したい
樹氷の合間から新雪を巻き上げて滑り降りる快感。山頂で圧倒的な広がりの中にたたずみ小さな自分を感じる瞬間。柔らかな陽射しが差し込むブナの森をゆっくり滑っていく感じ。この感覚はそこに行った人しか味わえないものです。明治35年の雪中行軍大量遭難事故が起こるような魔の山とも云われた厳しい気象条件の山で、訪れるお客さんの安全と安心を守りつつ、そんな山の楽しみを共有したいという思いは初めてガイドが組織されたときから変わることなくずっと受け継がれています。
山に来るお客さん達の顔ぶれは時の流れと共に少しずつ変わっていきます。使う道具も大きく変わってきました。それに伴って山での楽しみ方もどんどん増えてきました。それでも雪山に入る楽しみと八甲田の山そのものは少しも変わることなくここに有り続けるのです。
信頼の置ける道具類
道具と言えば、昔はちくちくするのを堪えながら素肌にウールのセーターを着て肌が濡れるのを防ぎ、上からヤッケを羽織って滑っていたそうです。下半身はニッカボッカにゲーター。雨が降ったらパンツまでびしょびしょ。でもそんなもんだと思っていました。合わないブーツで足に軟骨が出来ても先輩からは身体を道具に合わせるもんだね!といわれたものでした。
それが今では汗をかいてもすぐにさらっと乾くwool round neckやwool longsのメリノウールの滑るような着心地に癒されるようになりました。週7日着回しても臭くならず(※個人差があります)ひとシーズン破れずにもつのはすごいことです。
気温-10℃ 風速20m視界10mの吹雪という数時間で人を行動不能にしてしまうような環境の中でもツアーはおこなわれます。慣れない沢山のお客さんを連れて歩くのはとても緊張をしいられるものです。そこで自分のコンディションに気を使わなくても済む信頼の置ける道具類の存在はとても貴重です。
150日近く続くシーズン毎日のラッセルにも耐える耐久性も必要です。自分のコンディションに気を使っていてはお客さんとガイディングに集中できないのです。
デザインが秀逸
Norronaは速乾性・疎水性のあるインナーから始まり保温性・透湿性にすぐれたレイヤーがそろっていて快適なレイヤリングが出来るので気に入っています。特にlofoten Gore-Tex Pro Jacketは身体にフィットするのにバックパックを背負っていても動きを妨げることがなく、細部まで作り込まれたデザインが秀逸です。沢山のテストを繰り返した巧みな裁断によるものなのでしょう。
lofoten Gore-Tex Pro Pants
lofoten Gore-Tex Pro Pantsがまた素晴らしい。足を上げる動作への抵抗がほとんど無く、毎日のハイクやラッセルでも負担になりません。好みによって取り外しが出来るビブも心憎い作りです。ガイドメンバーも各人の好みで付ける人もいれば外す人もいます。ボタンでシェルジャケットのパウダースカートと一体化出来るのも便利です。今季から腕周りのパターンが変わったりベンチレーションが増えるなどモデルチェンジしたようなので今からとても楽しみです。
驚異的な耐久性
昔は雪の進入を防ぐために裾の長いグローブを使って居ましたがlofotenの手首をカバーする袖口と相性がいいので最近は、HESTRAのOMNI GTX FULL LEATHERを愛用しています。皮革を用途に合わせて使ったこの手袋はしなやかなところはしなやかに、強度が欲しい手のひらや指には強い素材を使っているので手にフィットしながらも驚異的な耐久性をもっています。毎日お客さんのスキーやスノーボードを手にしていながらシーズンを過ごしても破れないなんて他のグローブでは考えられませんでした。インナー素材のoutlastが快適な温度に保ってくれるのでツアー中でも手が冷えにくいのもたいへん重宝しています。
ブーツの進化
スキーやブーツの進化も驚くべきものでした。快適な道具が出てきても、もっと、もっとと思ってしまう。それに応えるようにさらに良い製品もどんどん生まれてくる。そんな進化の流れを感じながらガイドしています。スキーブーツはATOMICのHAWX ULTRA 130を使っています。個人差はありますが、履いた瞬間からどこも痛いところが無く足にフィットするようになったのはとてもありがたいですね。
足型に併せて様々な幅のブーツがあるので自分にあったものが見つかるのもいいですね。インナーを自分の足型に合わせて熱成形するメモリーフィットによってさらに快適に過ごせます。インナー素材の3M TM ThinsulateTMによって足が冷たくなりにくくなった所も見逃せません。スキーブーツは一般的に気温が低いと硬く、気温が高いと柔らかくなるものですが、このブーツは厳冬期から春まで硬度変化がほとんどなく、高いパフォーマンスを維持してくれます。
安定したターン
スキーはVECTOR GLIDE CORDOVAを使う機会が多いです。これほど作り手の妥協のないこだわりが込められた板に乗ったのは初めてです。この板はこう乗って欲しいという意志を板から感じます。ここはもっと踏んで良いよ。もっと突っ込んで。と板に言われているようです。新雪でもそのまま荒れたバーンに突っ込んでも、突然アイスバーンが現れても、しっかりと雪を掴んで安定したターンを刻んでくれます。刻々と変化する山のコンディションに的確に対応してくれる頼れる相棒です。
Mate48
バックパックはPLUS ONE WORKSのMate48を使っています。一般のツアー参加者には大きすぎますが、荷物の多いガイドには容量が大きくて助かっています。アバランチギアを取り付けられるバックパックは色々なメーカーから沢山出ていますがスコップが意外とくせ者で、スコップのカーブがバックパックと合わずに荷室を圧迫してしまうものが多い用に感じます。その点、Mate48は収まりが良くとても気に入っています。
正しい使い方ではないのでしょうが、スノーボードで先頭を行くとき時に深雪に阻まれて止まってしまうことがあります。そんなときワンアクションで取り出せるポールの付け方が個人的に気に入っています。ただ、この付け方は激しく転ぶとポールが外れやすいのでよい子は真似しない方がいいかもしれません。
小物の出し入れが結構多いので大きな天蓋がついているのはありがたいです。スノーボードやスノーシューが付いたまま天蓋を外して荷室を開けるのはちょっと面倒なのですが、Mate48には背面ファスナーも付いているので換えのグローブやゴーグルを素早く取り出せて便利です。細かいけれどかゆいところに手が届く機能が詰まったこのバックパックをこれからも使っていきたいですね。
アジアンフィットが最高
ゴーグルはPOCを使っています。色々なモデルを使いましたが、今はLobesを使っています。顔がでかく、尚かつのっぺりとしたジャパンフェイスな自分にもぴったり収まってくれるアジアンフィットが最高です。絶えず吹雪が吹き荒れる八甲田ではぴったりフィットするゴーグルは欠かす事のできないアイテムです。
Lobesは大きな球面のレンズが特徴ですが何といっても視野が広いのがいいですね。それでいてレンズ全体にゆがみが無く、視野の端でもクリアに見えるのでツリーランの時の安全性やホワイトアウトの時の平衡感覚の維持にとても有効です。これもあの世界的なレンズメーカー Carl Zeissの技術力のなせる技なのでしょうか。
もう一点POCのゴーグルの特筆すべき点はバンドの調節のしやすさと、その調節幅です。ゲストのゴーグルが曇った時用に予備のゴーグルとしても使っているのですが、男性から小柄な女性、ヘルメットまで幅広く対応できるのでガイドする上では無くてはならないアイテムです。
いよいよまたスキーシーズンが始まります。今年はどんな雪に出会えるのか、どんな道具と巡り会えるのかワクワクが止まらないのはいつの時代も変わることはありませんね。
八甲田ガイドクラブ
Hakkoda Guide Club
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次回は、アルペンスキー、スキークロスを経て現在はゲレンデからバックカントリーまであらゆる雪山を滑りスキーの魅力を発信し、ウィンターシーズンはVECTOR GLIDEのスキー開発に携わり、グリーンシーズンは自身のスタンドアップパドルボード(SUP)ブランド”PEAKS5”でボード開発も行ないながらSUPガイドとして活動しているNozawa green field 代表 河野 健児氏の登場です。
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