中根英登選手 ヘルメットを寄贈

2年連続でPOCヘルメットを保育園に寄贈した中根英登「ヘルメットを身近に感じてもらえれば」

Photo:Itaru Mitsui

 世界最高峰のUCIワールドチームに所属する数少ない日本人選手の1人、EFエデュケーション・イージーポストの中根英登は、これまで国内国外問わず数多くのロードレースを走り、そこで栄光を掴むとともに、多くの落車や怪我を目にしてきた。ロードレースに限らず自転車競技、それ以前に自転車に乗るという行為には、落車というリスクがつきまとう。そこで致命的な怪我を防いでくれるのがヘルメットだ。

Photo:Itaru Mitsui

 「ヨーロッパでは自転車に乗っている人は基本的にヘルメットを被っているイメージです。特に子どもは必ず被っていますね。日本みたいに子どもたちがヘルメットを被らずにスピードを出しているところは見たことがない。自分がヨーロッパの拠点にしているスペインでは、ヘルメット未着用者に罰金のシステムもあります」

と、かれこれ10年以上前から海外レースを転戦する中根は、肌で感じてきた日本とヨーロッパにおけるヘルメット着用の意識差を説明する。ママチャリ文化が根深い日本では、自転車が歩行者の延長としての移動手段と捉えられてしまっている場合が多いが、ヨーロッパでは当然のことながら車両として認識されていることも影響している。

 ロードレース選手のオフシーズンは概ね11月から1月までの数ヶ月間。しかし、その間ずっとトレーニングをしていないかというと決してそうではなく、オフシーズン突入から数週間の完全休養期間を経て、寒空の下、12月にはトレーニングが本格化する。そして距離を乗り込んで、徐々に強度を上げ、すでに走れる身体でシーズンインを迎えるのが通例だ。

 つまりロードレース選手には完全にスイッチを切る期間が年間を通してとにかく短い。

 2021年、そんな貴重なオフシーズンの序盤に、地元の保育園に中根の姿があった。チームから支給されて毎日のトレーニングで着用しているPOC社のヘルメットを園児たちに寄贈するという活動を行うためだ。

「2021年10月1日に愛知県がヘルメット着用の努力義務を打ち出したんです。努力義務なので罰則があるわけではないんですが、それがきっかけでヘルメット寄贈のアイデアが生まれました」

 そうして愛娘が通う愛知県の東浦町立森岡保育園にヘルメットを寄贈する流れが生まれた。年長クラスの園児たち17名全員に子ども用自転車ヘルメット『POCito Omne SPIN』をプレゼント。正しい装着方法の説明を行なった。

Photo:Itaru Mitsui

 今回のヘルメット寄贈の原動力になったのは、中根の「安全に自転車に乗ってもらいたい」という思いだ。

「自分も過去に激しく落車してしまい、その際に強い衝撃をヘルメットが吸収してくれたおかげで、頭部へのダメージを全く受ける事なく助かった経験が有ります。自分は自転車競技を行なっているのでヘルメットが身近が存在ですが、周りの子どもたちを見るとヘルメットは二の次になりがち。自分が住んでいる地域では自転車通学の中学生たちが、白い『ドカヘル』みたいなヘルメットを被っているので着用率は比較的高いものの、ヘルメットに『可愛い』『かっこいい』というイメージを持ってもらえれば。ヘルメットを身近に感じることで、自主的に被ってくれるんじゃないかと思ったのがきっかけです」。

Photo:Kei Tsuji

 保育園児にヘルメットを寄贈する活動は2022年も継続。実際に、「街中でPOCヘルメットを被った園児たちを見る機会も多くなった」と中根は語る。寄贈されたのはピンク、オレンジ、グリーン、ブルーで、いずれも蛍光系のカラーリングのためよく目立つ。安全性を高めるには被視認性の高さは正義だ。

Photo:Kei Tsuji

「実際に着用しているところを見ると、遠くからでもめちゃくちゃ目立つんです。陽が落ちてからはヘルメットの後ろのリフレクターがとても目立ちますし、寄贈できてよかったと思える瞬間です。今後は実際に、ヘルメットを着用して自転車を使った安全講習や乗り方、競技に参加する際の最低限身につけておかなければならない、技術等のスクールも関係者の方々と協力して増やしていけたら」。

Photo:Kei Tsuji

 高校時代に自転車競技を始め、大学チームから世界最高峰のチームまで階段を登り詰めた中根。EBウイルスによる伝染性単核球症に疾患し、思うようなシーズンを遅れないでいた2022年を最後に、現役を退くことを発表した。現役最終レースとなった10月16日のジャパンカップサイクルロードレースでは、機材トラブルに見舞われながらもアシストとして奮闘し、チームメイトのニールソン・ポーレスとアンドレア・ピッコロのワンツー勝利に貢献した。

Photo:Kei Tsuji

「次のステージでも高い志を持ってチャレンジしたい。またいつかどこかで、みんなで楽しく自転車に乗りたい」

という中根は、今後も安全性を疎かにすることなく、自転車の魅力を発信し続けてくれるに違いない。

 

中根英登(なかね・ひでと)

スプロサイクリスト。1990年愛知生まれ。世界トップカテゴリー UCIワールドチームのEFエデュケーション-イージーポストに所属する、日本屈指のクライマー。2022年で選手を引退。今後は自転車の普及や若手の育成を行う。https://hideto-nakane-fan-club.jimdosite.com/

POCito Omne MIPS

-Comment by Hideto Nakane
@hideto_nakane

-Texts by Kei Tsuji
@keitsuji