エベレストを中心に高峰登山ガイドを続ける倉岡裕之。酸素は地上の1/3という生命の維持すら難しい標高8,000mのデスゾーンで、登山者を安全にガイドする。そんな人の理解を超える困難な仕事に15年以上も携わり、すでにエベレスト登頂は9回を数える。仕事柄、記念すべき10回目の世界最高峰登頂も目前だったが、それに待ったをかけたのは新型コロナウィルスによる世界的なパンデミックだった。感染対策で海外渡航が閉ざされれば、高峰登山ガイドは完全にお手上げだ。それならば、ということで倉岡が若き日に通った北アルプス穂高連峰に向かった。
倉岡 裕之 (くらおか・ひろゆき)
1961年、東京生まれ。10代から先鋭的クライマーとして活躍し、デナリ・アメリカンダイレクト第3登やベネズエラ・エンジェルフォール初登などの実績を残す。海外登山ツアー会社勤務を経て、2003年から高峰登山ガイド。主なガイド山域は七大陸最高峰。2013年、80歳でエベレスト登頂に成功した三浦雄一郎をガイド。2021年5月現在、七大陸最高峰登頂は少なくとも54回以上。エベレスト登頂は9回を数え、日本人最多登頂記録を更新中。
「穂高岳に来るのは久しぶりですね」と倉岡裕之は言った。そもそも倉岡がこれだけ長い間日本に居るのだって珍しい。いつもなら春のエベレストを皮切りに年に6、7回は海外遠征に出るから、国内で過ごすのは短いスパンで2日間、長くても2週間程度。それ以上間が空くのは遠征がキャンセルになったときだった。
「以前、チベットに入れなかった年があって、エベレスト遠征がキャンセルになったんですよ。その年に夏から秋にかけて、よく穂高岳や槍ヶ岳でガイドしましたね。あれ以来かな。あれは何年前だったかな。最近は3年前だと思っていたことが、実は10年前だったってことがよくありますからね。ははは(笑)」
標高3,000mを超える北アルプス穂高連峰は岩と雪の殿堂とも呼ばれ、そのアルペン的な景観美と国内屈指の岩稜帯は高い人気を博している。また、側壁にはスケールの大きな岩壁をいくつも有し、それらは国内クライミングの表舞台として多くのドラマを歴史に刻み込んできた。
若い頃から先鋭的なクライマーとして名を馳せていた倉岡もまた、そんな穂高岳に何度も足を運んでクライミングの技術と経験を磨いてきたひとりである。
「若い頃の穂高で印象に残っているのは、ゴールデンウィークに10日間くらい掛けたパチンコ(継続登攀)かな。屏風岩を登って北尾根から4峰正面壁、前穂東壁。前穂高岳から北穂までぐるりと縦走して滝谷を登り、そのあと槍ヶ岳から北鎌尾根を下り、帰りがけに唐沢岳幕岩。あとは厳冬期の滝谷も強烈でしたね」
当時、ヒマラヤのバリエーションルートを目指すクライマーたちは、国内でのトレーニングとして何本かのルートを継続して登っていた。海外の大岩壁と比べてスケールが足りないぶんを継続登攀で補おうという考えだ。そして登攀と下降を繰り返しながら岩壁を継続していく様子がパチンコ玉の軌跡に似ていることから「パチンコ」と呼んだ。
「あの頃、クライマーといえばヒマラヤの大きな岩壁を登るためにクライミングをやり、冬山をやり……という時代だったじゃないですか。フリークライミングもやっていたけど、やっぱりアルパインクライミングがメインで、あの頃、僕らは依然としてヒマラヤの大岩壁を目指した。そんな時代だったんですよね」
このジャケットはシンプルなデザインで、余計なものが付いていないので扱いやすいです。着丈が短めだからハーネスを着けたときはしっくりくるし、ポケット位置もハーネスに干渉しない。また最近は縦走のときもヘルメットを被ることが多いから、ヘルメット対応のフードが必須ですね。レインウェアとしてはややオーバースペックに思えるかもしれませんが、夏山でもこのクラスのシェルを持ったほうがいいと思います。実は先日、ガイドで西穂高岳に行ったときに雨に降られたんですよ。夏の雨って、雪山よりも体を濡らすじゃないですか。そのときは軽いソフトシェルの上下だったのですが、体が濡れて低体温症になってしまったんです。風が強い中で横殴りの雨が降る日などは、やはりゴアテックスのシェルじゃないとダメだなと実感しましたね。濡れたら死んじゃうことだってありますからね。
これも「フォルケティン ゴアテックス ジャケット」と同じ理由で、夏山でも必需品です。横殴りの雨には上下でシェルを着ないとダメですからね。ゴアテックスのシェルだけど、シェイプ的には細身のシルエットが出るのでいいと思います。また、フルサイドジップなので温度調整がしやすいです。
Hiroyuki Kuraoka
@hiro_kuraoka
https://hiroyuki-kuraoka.com
-Photo by
Yosuke Kashiwakura
@yosuke_kashiwakura
-Text by
Chikara Terakura
@c.terakura