Houdiniの物語は1980年代後半、若く意欲的な女性クライマーの冒険から始まりました。彼女の名前はLotta Giornofelice (ロッタ・ジョルノフェリーチェ)。ロッタは、着心地が良くて岩にこすれても摩耗せず、どんなムーブも妨げない、機能的なウエア選びにいつも苦労していました。そこで、ロッタは1993年、自分や友人たちのハードなアクティビティに欠かせないウエアを作るためにHoudiniを立ち上げたのです。ミッドレイヤーが薄手の布団ほどに分厚くかさばる衣類だったその当時、女性が主導するアウトドアブランドも、通気性という概念も、まだ世の中に登場していませんでした。
ロッタ・ジョルノフェリーチェ(左)とインド・シッキムの王女、ホープ・レーズム・ナムゲル(右)、1996年
動きやすく快適で、あらゆるアクティビティにフィットする通気性を備えたウエアは、ロッタの周りのクライマーやスキーヤーのコミュニティに、瞬く間に広まりました。自分たちが着たいウエアを妥協することなくデザインし、ラインナップを徐々に増やしていたちょうどその頃、ロックトリップに出かけたニュージーランドで、ロッタはPolartec® Power Stretch® Pro™という革新的な素材を手にします。この素材は、ロッタが頭の中で描いていた、理想的なミッドレイヤーにぴったりのように思えました。フィット感に優れ、レイヤリングしやすく、街でもバックカントリーでも頼りになり、ずっと触れていたいほどに柔らかく、まるで魔法のような……。それは、ロッタが理想とするミッドレイヤーに欠けていた、最後のピースだったのです。
フリースウエアと手作りのフリースフラワーを飾った初期の展示会ブース(左)、Houdini創設者のロッタ(右)
こうして、魔法のような着心地をもつ完璧なミッドレイヤーの開発がスタートしました。2001年、ようやく完成したデザインの最終段階で、そのプロトタイプのフリースジャケットに初めて袖を通したテスターの1人が、国際山岳ガイド連盟の山岳ガイド資格を持つCarl Lundberg (カール・ルンドベリ)。カールはその後の10年間、肌寒い季節はほぼ毎日これを着て、4つの大陸を旅しています。
「このジャケットには、世界のあちこちで経験した冒険がぎっしり詰まっています。ろくな装備を持たず、衝動的に出かけてしまったカリフォルニアのマウント・ホイットニー (標高4,421m) で寒さから守ってくれたのも、ノルウェーのシェラーグで、高さ950mのビッグウォールにポータレッジ(岩壁に吊るして使う、簡易的なクライミングテント)を取り付けて一夜を明かしたとき、毛布に包まれているような安心感を与えてくれたのも、このジャケットでした」(カール)
カールのプロトタイプと同じく初期に作られたPower Houdi
テスターとしての役目を終えた後もカールはこのジャケットを手放さず、バックパックにしのばせてさまざまな冒険に出かけました。
「日本でパウダースノーを滑ったり、ハワイのビーチで寝転がったり、このジャケットとたくさんの思い出を共有してきました。いろいろなものの消費が加速度的に進む現代において、一つの製品と長くよい関係を築くことは、環境負荷を低減するだけでなく、純粋に美しく、エモーショナルな体験であると断言できます」(カール)
UIAGM国際山岳ガイドのカール・ルンドベリ