田平さんの「旅樂」には一般向けのネイチャーツアーガイド業務のほかに、撮影コーディネートという設立以来のもうひとつの柱がある。屋久島を訪れる撮影クルーを多角的にサポートする仕事で、たとえば、番組や誌面が求めるロケーションに案内し、必要に応じて山中泊の手配や実施、ロケ中の安全性の確保などを行なう。当然ながら、これは屋久島を知り尽くしたガイドに最適な仕事なのだが、なかでも、トレイルからは見ることのできない山容や、道なき道を進んだ先の景色まで把握している田平さんの右に出る者はいなかったのだ。
2018年には、今度は田平さん自身が映像カメラマンとして旗揚げしている。撮影コーディネートを続けた12年間で、屋久島を訪れる映像作家や著名な写真家との交流を深めることで、自身が映像や写真への興味と知識を高めていったことがひとつ。もうひとつは、早い段階からドローン機材を購入して自身で試行錯誤を繰り返してきた成果ともいえた。
「ある時期からドローンを持ち込む撮影が急増していって、それを現場で見ているうちに自分でも飛ばしてみたくなったんです。写真はすごいレベルの写真家さんたちを直接知っているので、最初から無理だと思っていました。でも、ドローン撮影はまだスタートしたたばかりの時期でしたし、自分にもチャンスがあるのではと思ったんです。それがちょうど時代のニーズに合致したようです。また、僕が映像撮影で参加すれば、ガイド兼コーディネーター兼カメラマン。一人三役なのでクライアントとしても好都合だったようですね」
現在の田平さんの仕事は撮影登山が7割、ガイド登山が3割くらいの比率で、撮影のうちコーディネートとドローンを含めた映像撮影が半々くらい。自身の仕事としては次第に撮影にシフトしつつあるという。ウェブサイトを開いて撮影実績を見ると、クライアントには誰もが知るような大手企業がずらりと並んでいた。
「撮影登山は撮らなきゃいけないというプレッシャーと緊張感、いい映像を納品できたときの達成感が嬉しいですね。一方、ガイド登山には遠くからいらしたお客様と一緒に山を歩くという楽しみがある。同じ登山でも違うジャンルだなと思いますね。でも、仕事としてはどちらも充実感のあるものです」
撮影のときの田平さんは、6K動画を撮れるプロ仕様のシネマカメラや交換レンズ、ドローンといった撮影機材一式を、125Lという大容量を誇る大型バックパックに収めて山を歩いている。一泊二日のロケツアーなら食料込みで40kgになるが、それはツアーガイドでも同じ重さを背負うので特に問題はないのだという。
さらに、このコロナ禍で来島者が激減したことで多くのガイド会社が苦境に陥っているが、逆に田平さんへの撮影依頼はむしろ増えているという。それは撮影クルー自体が来島できないために、制作会社としてはリモートでの撮影依頼に頼るほかに手がないという事情もあるようだ。
「屋久島に暮らしているというのは、ひとつの大きな利点ですね。オーダーをいただいてから、時間が許す限り、いくらでもリトライができますし、過去に撮り溜めたストック映像がかなりあるので、場合によってはそれを提供することもできる。あとは基本的に毎日のように山に入っているのですが、その際、撮影機材は常に携行しているので、ここぞ、というタイミングではカメラを回します。やはり、そのあたりが強みなのかなと」
Takuya Tabira
@tabirafactory
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-Photo by
Yosuke Kashiwakura
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-Text by
Chikara Terakura
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